「雷の獣と出遭った夜のこと」

OVERVIEW

自分の創作生物が野生に生きる姿を、とあるモブキャラが 目撃したらどう思うか?をコンセプトに書いた1,000字ほどのSSです。

YEAR 2020

別ページで紹介した作品「モンスターの生態」にも記載した、下記画像の生物が主役です。

以下、SSとなっております。


ここから少し離れたとある鉱山で珍しい鉱石が大量に見つかった―そんな噂を街で耳にしたのは偶然だった。採掘家として生計を立てている以上、珍しい鉱石の情報は常に追いかけていかなければいけないものだ。いつもは街のすぐ傍にある小さな鉱山で採掘作業に勤しんでいるが、こうしてはいられない。一攫千金の夢を心に秘めつつ、同業者に先を越されないよう急いで荷物をまとめて馬車に乗り込んだ。


―これだけ採れれば上々だろう。

今日の成果は上々―どころか、数か月は食うのに困らない分の鉱石を採掘できた。

作業に集中していたため気が付かなかったが、周囲はすっかり暗くなり俄かに霧も出てきている。一雨来そうな雰囲気だ。天気が荒れないうちに早々に山を下りるかと、鉱石を詰めた鞄を背負いなおした時、頬に水滴が落ちてきた。

あっという間に本降りになった雨は瞬く間に地面を濡らしていく。急いで木陰へ避難したが一足遅く、自分の服も荷物もすっかりびしょぬれだ。

「あぁくそ、運が悪いなあ」

雨脚は強くなるばかりだし、なんなら雷も鳴り出した。最悪だ。

―ふと視線を感じたので見上げると、目上の岩に雷雲を纏った大きな獣が鎮座してこちらを見つめていた。

大きさは2メートルほどだろうか。雷を纏っているからか、アイボリーホワイトの体毛は逆立っている。瞳は理知的な光をたたえており、瞳孔は稲妻の形をしている。首周りや耳、手脚の周囲に雷雲が集中しているようで、かすかにではあるが雷鳴が聞こえてくる。雷が雲の内部に閉じ込められていて、ぴかぴかと明滅している様子がとてもきれいだ。


突如目の前に現れた美しい獣を前にして、気が付けば私は腰を抜かしていた。背負った鞄に詰め込まれていた鉱石が一面に散らばる。獣から放たれる雷光が鉱石にちかちかと反射してまぶしい。

―ふと、幼い頃祖父から聞いた話を思い出した。山で霧が深くなってきたら雷を纏った獣が現れるという話だ。確かライジュウとかいう種族だったはずだ。

それにしても大きい。にもかかわらず、獣が鎮座している岩は崩れる気配もないし、見た目よりも軽いのだろうか―私が回らない頭でそんなことを考えている間に、ライジュウは私への興味を失ったのか視線を外していた。そして、大きく一鳴きしたかと思うと霧に溶け込むかのように姿を消した。瞬く間の出来事だった。


あの後、雨は一日中降り続けた。ひどい雨の中で山を下りるわけにもいかず、落雷の恐怖に怯えながら木陰で一晩を過ごすこととなった。五体満足で家に戻って来られたのは幸運としか言えない。

ライジュウと出遭ったあの日の出来事は、きっと一生忘れることはないのだろう。