【制作趣旨】
手紙、と聞くとまず、封筒に入れて、ポストに投函する、「遠くにいる相手に伝えるため」のものを想像する人は少なくないだろう。だがしかし、手紙には様々な形がある。端的に言ってしまえば、文章として誰かに残したものは全て手紙だと考えられるのではないだろうか。そんな中で今回は「置き手紙」に焦点を当てた。恐らく手紙としてカテゴライズされる中では最も簡素な形式であろう。初めは単に家族への置き手紙という名目で考えていたが、それではあまりにもありきたりな文章になってしまったので、原住民として暮らしている家族、という設定を付け加えた。置き手紙というのは基本的に相手に託けておきたいことが簡潔に書かれてある。自己紹介もしなければ季節の挨拶も添えない、相手の名前すら書かないことだってあるだろう。手紙というよりはメモに近いのかもしれない。要するに、書く側と読む側、ある程度の共通の認識がなければ、成り立たない形式の文章だ。原住民の家族、という読者にとって馴染みのない存在に関して、いかに短い文章の中で人物や過ごしている環境の設定を伝えるかという点で工夫をした。また、恐らくは普段耳にしないであろう動物の名前を用いて、文章のリズムや視覚的な面白さも考慮した。
設定:森の中で原住民としてサバイバル生活をして暮らしている一家、母から息子への置き
手紙(葉っぱとか石に刻まれてる)
息子へ
母さんは今から長老が開く村の集会に行ってきます
洞窟の中で今朝お父さんが素手で獲ったクロコダイルが冷えているので、焚き火でボンして食べてください。もしかしたら昨日の残りのナミチスイコウモリの和え物もまだあるのかもしれないので、それも余裕があれば食べておいて。
それから食べ終わった後の食器は必ず洗うようにしてください。石を割っただけの食器なのでそのまま置いておくと汚れがこびりついてとても困ります。月の光だけを頼りに真夜中にお皿を洗う母さんの身にもなってください。
今日の昼の雨のせいで川が増水しているので帰るのは遅くなりそうです。夜中に動物が寄ってくると危ないのできちんと火は消してから寝るように。
あと学校からもらってきたお知らせは必ず渡してください。昨日も第一回保護者部族集会のお知らせが配られたそうですね。お隣の集落のンディプヤさんから聞いて初めて知りましたよ。すごく恥ずかしくてイチゴヤドクガエルみたいに顔が赤くなりました。これを読んだらすぐにお知らせを机に出しておいてください、いいですね。
それじゃあ留守番お願いします。おやすみ。
母さんより
