モモコのともだち

OVERVIEW

【創作実習課題/小説】添付された写真から1枚選び、その写真をもとに書く。400字詰め原稿用紙10枚以内。犬の写真を選び書いたものです。

YEAR 2020

終業式の日に、「夏休みの宿題、友達を呼んで一緒にやりたくない?」とモモコに誘われた。そして今、私は初めてモモコの家にお邪魔している。

モモコがミミという犬を飼っていることは知っていたが、実物を見るのは初めてだった。ミミはクリーム色のふわふわとした毛質で可愛らしかった。

「ミミちゃん、可愛いね」

優しい表情がモモコに似てて、と言おうとしたけどやめた。調子付いたモモコはすこし面倒くさい。

「でしょー!ミミ、良かったねえ」

モモコがミミの頭をわしわしと撫でながら言った。

「飲み物とお菓子持ってくるから待ってて!ミミ、さなえに迷惑かけちゃダメだよ」

モモコがミミと目を合わせ、人差し指を立てると、ミミはおすわりのポーズをとった。お利口さん。モモコはミミにちゃんとしつけをしているんだな、と感心した。

モモコが部屋を出ると、ミミとふたり(正しくは一人と一匹)になった。初めて会う私にも吠えたり噛み付いたりせず、ミミは部屋をゆっくりと歩き回っている。

「ミミちゃん」

遠慮がちに名前を呼んでみるが、反応がない。床に何か気になるものがあるのかもしれない。もう一度、さっきよりすこし声を大きくして「ミミちゃん」と呼ぶと、ミミは私の方を向いた。

「こっちにおいで」と右手でちょいちょいと手招くと、ミミは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

どうやら私はミミに好かれていないらしい。

「お待たせ!」

お茶が入ったグラスとポテチを乗せたお盆を持ってモモコが戻ってきた。ミミを踏まないように気をつけながら白い丸テーブルにそれらを置く。ミミもモモコを避けるように、私の足を踏みつけながらペット用のソファへと向かった。

「モモコ、宿題やりながらポテチ食べるつもり?」

「うん」

「プリントに油ついちゃうよ」

「別に私は気にしないもん」

すこし呆れながらも無頓着なところがモモコらしいな、と思った。鞄からペンケースとプリントを出し、宿題に取り掛かろうとする。

「今日は宿題片付けて、夏休みはいっぱい遊びに行こうね」

モモコはちゃらんぽらんに見えて、忘れ物をしないし、テストの成績も悪くない。柔らかい雰囲気を纏っているせいで、しっかりしているのが意外に思えてしまう。

「そうだね」

モモコはこの夏休みを私といっぱい遊びに行く気でいるのか。嬉しくなって口元が緩んだ。

 

 

 

空がまだ茜色にもなっていない夕方。私たちは自由研究以外の宿題をあらかた終わらせた。

「今日はありがとう」玄関で靴を履いて、モモコにお礼を言う。

「こちらこそ!捗ったなあ」

全然構ってくれなかった(むしろ嫌われていただろう)ミミもついてきて、モモコの足元で床にべたあ、と伏している。

「ふふ、モップみたい」お別れの挨拶を、と思ってしゃがむ。

「あはは、ほんとだ」

「またね」と言ってふわふわのからだに触る。嫌がられてはいないみたいだ。すこし撫でてみる。柔らかくて、ほんのり温かい。

「私、ミミに嫌われているかと思ってたんだけど」顔を上げて言う。

「勘違いじゃない?ミミ、すごく嬉しそうだよ」

「たしかに」

さっきは私がモモコの友達として相応しい人間かどうか見定められていたのだろう。この様子だと認めて貰えたと思いたい。

「それじゃあ」ミミのからだから手を離して立ち上がる。

「うん、水曜日はプール行こうね」

夏休みだから毎日は会えないけれど、モモコは四日後にまた私と会う約束をしてくれる。

「わかった。準備しとく」

もっと嬉しそうに返事をすればいいのに。自分で自分につっこんでしまう。

「バイバイ」

「シーユー!」

モモコが手を振るのに合わせて、ミミも長くてふさふさした尻尾を揺らしていた。